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『蝶のやうな私の郷愁』観て来ました。

飯島は、PARCOプロデュース『プライベート・ライヴズ』の稽古中です。
暑い・・・実に暑い・・・ひたすら暑い・・・なにしろ・・・暑いです。
稽古場の中に入れば、勿論涼しいです。
が、稽古場にたどり着くまでが問題です。
駅から稽古場まで、直射日光に灼かれたアスファルトの道路を延々歩きます。
完全な真昼に。昼の12時に。稽古は午後1時開始だから。
地獄のように、最悪に暑い時です。
体感温度は、50度です。私的には。

稽古場に着くと、皆さんに、
「飯島さん、なんで、そんな茹だったみたいな顔してるんですか?」
と訊かれます。

「歩いてきたからです」

で、稽古に着いてから、20分くらい休まないと、生きた人間には戻れないです。
稽古場に着くまでの間に、飲み物と昼ご飯買おうとして、コンビニに寄るんですけど、オフィス街なもんで、会社員の皆様方がいっせいに昼ご飯を購入しにいらっしゃる時間です。お弁当コーナーはなんかものすごい混雑なんです。飲み物コーナーも無論レジも。
だから、半分熱死したような状態の私は、その昼飯確保戦争を生き抜くことができようはずがありません。自分が生きるための食料と飲み物を確保できません。
しっかりしろ、自分!

生きろ!

でも、結果、何も獲得することができずに、体感温度60度の東京砂漠を遭難しそうになりながら、稽古場に着きます。
ちょっと涼んでから、昼ご飯を買いに行くと、もう売り切れです。
結局、食料は手に入れられないです。
・・・これから、稽古なのに、もう空腹の極致だ。
どうする・・・?

生きろ・・・

そんな日々ですが、
ようやく最初の稽古休みが来ました。

で、
『蝶のやうな私の郷愁』を観てきました。

なんていうか、素敵な芝居でした。
まず、私は、劇場に入った途端、まず明かりに感動してしまいました。
芝居が始まる前から。
アパートの部屋の中って装置なんですが、
曇りガラスの外の夜の景色の灯りが、
なんかもう、この芝居のトーンそのまんまな感じで、
すっごくいいなあ、と思って、ずーっと見入っちゃいました。

で、始まって、勿論、外の夜の町というか通りの灯りも変化するんですけど、
それもまたいいんです。
芝居が始まる前には見えなかった、部屋の中の明かりと影も味があるし。
ふすまの代わりに部屋のすだれにうつる洗濯物の影とか、
もう、すごく素敵です。
私、照明だけで、なんか泣きそうになってました。
この芝居のクライマックスのすごい照明にいきつく前に、最初から、もう感動してる状態でした。

照明は、自転車キンクリートでも、いつも照明をやって頂いている中川隆一さんです。
この芝居の照明、私はすごく好きでした、中川さん。
あ、鈴木裕美が演出なので、
鈴木の演出プランも、まざってると思いますが、
とにかく、私は、まずは、照明が好きでした。

装置は、古い、生活感満載のアパートの部屋なので、
舞台の上には、古いちゃぶ台っていうか、折りたたみテーブルと、座布団とか、
なんか、どこにあったのか、って感じの箪笥や、箪笥の上に載ってる小さい引き出しが三段くらいある小物入れみたいな、ミニ箪笥(っていうのか、なんていうのか)とかがあるんですが、何もかも皆懐かしいって感じで。
よくあったな、あんな家財道具。
なんか、とっても、居心地いいような悪いような、懐かしいような思い出したくないような、そんな感じの味わい深い部屋です。

いわゆるちゃぶ台より、ちょっと後の時代にあった折りたたみテーブルをはさんで、
うすーい座布団に座ってる夫婦が、お互いの顔を見たり見なかったりしながら、
ずーっと向かい合ってて・・・
そこにあるのは・・・なんか、ものすごい陳腐な言葉で、このお芝居を形容するのに、ふさわしいかどうか、非常に迷うんですが、
愛、としか言いようのない感情のみ、でした。

複雑で、いろんな思いや、相手の気持ちをさぐる気持ちもあるけど、
それにしても、
見詰め合ってる二人には、確かに愛が、なんかすごく密度の高い愛がある。
愛が形になって見えたっていうか、
この愛は手で触れるぞって気がしました。

はっきりした結論が出てしまうことから逃げながら、
結論が早く出て欲しいとも思ってて。
愛や関係が終わるのを恐れながら、
早く終わりが来て欲しいとも思ってて。
相手の顔がすぐ近くにあることは日常であるはずなのに、
それにすごく困惑してて。
見詰め合い続けている間中、破滅と終わらない愛を同時に抱えてて。
そんな二人を、すぐ近くから見ることができました。

こんなことを、並べて数え上げるなんて、すごく無粋です。
言うのは、さらに無粋ですが、
手で触れる形を持ったような愛そのものを、舞台の上で久々に見られました。

だから、向かいあってる二人を見てる間にも、
何度も涙出そうになっちゃいました。
私は、滅多に芝居を観て泣いたりしないんですが。
でも、この芝居の中の、何でもない台詞や、何でもなくもないかもしれない台詞や、
視線の交錯や、視線の合わないことや、他のお客様が笑っているところでさえ、
どうしても涙出そうになってました。

「なんでこんなに感動してしまうんだ?・・・私に愛が足りないだけか?」
と思って観ていたのですが・・・
それも確かにそうだと思います。
そうなんですけど、それ以上に大きな理由は、
今私がいる稽古場の芝居が、これと全然違う世界だからだと思います。
『プライベート・ライヴズ』は、恋愛話満載ですが、
こんな濃密な、比重が重い、息が苦しくなるような愛は、ない、です。
自分にない愛が、無限にあって、
自分が今いる稽古場には、出てこない愛が劇場いっぱいにあったので、
心動かされたんだと思います。

私は、俳優・坂手洋二さんのファンです。
ファンなんですけど、なんで、何が、どこがいいのか、惹かれるのか、
理由は、はっきりとは判りません。
何だろうって、ずっと考えてるんですが、どうも判りません。
いや、坂手さんは魅力ある役者さんです。
ただ、どこに私個人が心惹かれるポイントがあるのかが、なんかどうも、はっきりしなくて、ずっと謎なんです。

「愛してる」って思ってるのが、すごくよく伝わってくるんです。
坂手さんという役者さんから。
そこが好きなんですけど。
失礼な言い方になりますが、すごく女性にモテそうな感じも、
女好きだって感じも、
芝居してない坂手さんからは、あまり感じられないんですけど。
・・・失礼な言い方ですね、どうにもこうにも。
すごく失礼です。
でも、失礼のお詫びをすっ飛ばして言い続けますが、
舞台で見るとすっごく愛が溢れて見えるんです。
愛してる方であっても、愛されてる方であっても、
どっちにしてもなんか愛がたくさんある感じに、見えるんです、坂手さんは。
ほんとは、普段から、なんか愛が溢れた人生を、実際に送ってる人なのかもしれないです。
普段のことは、あまり存じ上げないんですが。

素直に、ファンだって言うだけでいいんですが、
自分自身で、はっきり理由が判りたいです。
何が私にとって魅力だから、ファンなのかが、判らないのが、引っ掛かるんです。
自分が、何が言いたいのかも、謎になってきました。
謎だらけだ。

とにかく、素敵な芝居です。
組曲 二十世紀の孤独』ということですが、
あとのお芝居も、楽しみです。
愛があるから、孤独があるわけだし、
孤独があるから、愛がきわだつのだとは判りますが、
私は今回の『蝶のやうな私の郷愁』では、愛の方ばかり感じました。
自分自身は、個人的には、孤独の真っ只中ですが。

ほんともう、全然、この芝居と雰囲気ちがうんですけど、
『プライベート・ライヴズ』の稽古場の模様が、演出の山田和也さんのブログ「SHOW GOES ON!!」に書かれています。
飯島も「顔を洗って出直します」で同じ稽古場の毎日を書いています。
山田和也さんは演出で、私はその芝居の台詞書いた者なんですけど、
だから、同じ芝居の同じ稽古場にいるはずなんですけど、
私、自分の書いてから、山田さんの読みにいったら、
同じ芝居の同じ稽古場にいるとは思えませんでした。
まあ、お暇でしたら、覗いてみてください。
そして『プライベート・ライヴズ』公演にも、是非お越し下さい。

(2006年8月9日)

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