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山田和也さんという演出家

私が書く、舞台の脚本は、それだけだとただの文字の集まりで、芝居ではありません。
脚本を演出家に託して、舞台で立体化して頂いて、初めてただの文字たちだったものが、芝居になります。
何人かの演出家の方と、お仕事をさせて頂く機会がありました。そしてこれからも、できるならば、より多くの演出家さんとさらに色々なお仕事をさせて頂きたいと思っておる次第の飯島ですが、一本の芝居をご一緒させて頂いたくらいだと、その人がどんな演出家なのか、つかみきれないことが多いです。
勿論、ゴージャスな芝居を作るだとか、笑いが多い芝居が好きらしいとか、文学的でストイックな舞台を作るとか、役者さんから出るアイデアやプランやライブで即興な感じを大事にしてるみたいだとか、スピード感があるとか・・・そういう、舞台を観て判ることは、おおよそ判ります。
が、その演出家の方が、何を核にして芝居を作っていくのか、というようなことは、判らない場合が多いです。だいたい、私は演出家じゃないですから、頭の構造がそもそも演出家じゃないので、演出家の考えることは判らんです。

一番、一緒に芝居を作っているのは、当然うちの鈴木裕美です。何本一緒にやったか、もう覚えてません。
十年くらいやった頃だったか「ああ、鈴木ってこんな風に芝居を作る演出なんだなあ」というイメージが、おぼろげにつかめてきた気がしました。
私の勝手なイメージですが、鈴木は「家を建てるように」芝居を作る「建築家」だと思います。

なんか芝居と関係ない感じの喩えになってしまいますが(でも、芝居の作り方の話です)、
鈴木はまず「今回は、スペイン風の家を建てます」と宣言します。
その時は、設計図は勿論完成予想図もあります。
でもって、出演者やスタッフに「こんな風にする積もりです」と提示します。
きちんと土台を作り、柱を立て、屋根を乗せ、壁を作り、内装も家具調度品も全部そろえて、仕上げます。
勿論、構造偽装など絶対しません。
作ってる途中で、いきなり「すみませんが、米俵を屋根の上にのっけてもらえませんか」
とかいう理不尽な注文を、誰かが持ってきたりすると、鈴木は言います。
「私は、最初にスペイン風の家を建てると宣言しましたよね。スペイン風の家の屋根に米俵が乗せられると、あなたは思いますか?」と。
米俵をのっけてくださいと言った人は、
「確かに、スペイン風の家の屋根に米俵を乗せるのは駄目っすね」と引き下がることになります。
勿論、人の言うことに耳を貸さない訳じゃないです。一緒に芝居を作ってる人のナイスなアイデアは、どんどん聞いて、面白ければどしどし取り入れます。
「鈴木は、パティオにはバラを植えるって言ってたけど、オレンジの木もいいんじゃないかと思う」とか言ってみると、
「オレンジいいね。スペインぽいし、花の香りもいいし、実がなったら食べられるし。オレンジの木にしよう」ってなることも多いです。
中には、松の盆栽を持ってくる奴もいて、他の人は「スペイン風の家に松の盆栽はありえないだろう・・・」と思ってたりするのに、鈴木は、
「松の盆栽、窓際のテーブルの上に置いてみると面白いかも」とか言って、置いてみちゃったりして、でもって、実際面白かったりします。

長い喩えになっちゃいましたが、
鈴木は、なんかそんな風に、家を作る建築家みたいに、芝居を作っていく演出家だと私は思っています。

飯島が台本を書いた「プライベート・ライヴズ」という芝居が、今ちょうど稽古中です(作はノエル・カワードさんです。まもなく初日です。9月4日からです)。
演出は、山田和也さんです。
山田さんとお仕事をさせて頂くのは二度目です。一度目は「春が来た」(向田邦子さんの小説が原作)でした。

その時の打ち合わせは衝撃的でした。

山田和也氏という超人気で面白い芝居を作る大物演出家との、初めての打ち合わせなので、必死でシノプシスを作って、「こんなイメージで、こういう脚本を書きたいです」と申し述べることをあれこれ考え抜いて、打ち合わせに臨みました。
山田さんにシノプシスを読んで頂いて、私が用意してきた話を終えると、山田さんは言いました。
「いいと思います。じゃあ、書いてください」
え?
終わりですか?
何か要望とか、オーダーはないのでしょうか?
・・・ないみたいでした。
初めての打ち合わせはそれで終わりでした。

で、準備稿を書いて、読んで頂いて、また打ち合わせです。
「今度こそ、山のように、駄目出しとか注文とか文句だとかが、ある。手直しどころか全部書き直しみたいな事態が、確実にやってくるに違いない」と、最悪の状況を覚悟して、山田さんとの二度目の打ち合わせに臨みました。
山田さんは言いました。
「面白かったです。これでいきましょう」
終わりですか?
ほんとに終わりですか?それでいいんですか?マジで終わりなんですか?嘘ですか?
すると、山田さんが言いました。
「で、ですね、飯島さん」
ほら、やっぱりあるじゃないか!
「ちょっと長いので、カットしてください。どこをどう切るかは任せます」
今度はほんとに終わりでした。お疲れ様でした。

駄目出しも書き直しの要請も何もなかったので、そこで私の仕事はほぼ終わりってことになり、本来なら喜んでいいはずなのですが、むしろ不安になりました。

ほんとにほんとにいいのだろうか・・・・

でも、本番の舞台を観たら、私は面白かったので、
「あぁ・・・これでよかったのかぁ・・・」とやっと思えました。

ですが、山田和也さんという演出家がどういう演出をする方なのかについては、当然さっぱり判りませんでした。
打ち合わせしたのも、合計3分くらいだし。
私は、はなるべく稽古場で稽古を見ていたい方なのですが、「春が来た」の時は、ちょうど次の舞台の本を書いている最中で、ほとんど稽古場に行けませんでした。
だから、山田さんのことなんか、全然判る訳ないんです。

そして今回、「プライベート・ライヴズ」で、山田さんと、またご一緒させて頂けることになりました。

ノエル・カワードの「PRIVATE LIVES」は、非常に手ごわい戯曲です。
軽いタッチのラブコメディで、ストーリーはものすごく単純です。
ものすごく単純なストーリーだからと言って、話の筋を変える訳には勿論いかないし、新しいエピソードをつけ加えたりもできません。
「一体、これ、どうしたらいいんだろう!?」
まったくさっぱりちっとも、プランが浮かびません。困り果てました。

それもあって、今回は山田さんと、お二人のプロデューサーと「どんな舞台にしようか」という打ち合わせを何回もしました。
最初の打ち合わせは、いつで何を話したか、もう忘れちゃったのですが、山田さんがとてつもなくお忙しくて、稽古だの本番だの次の舞台の準備だの、それらが全部重なっていたりする中、ちょっとしかない隙間の時間に、無理無理打ち合わせしました。「ハゲレット」の公演が始まって、やっと山田さんの体が一日あくという日に、延々8時間打ち合わせして、「PRIVATE LIVES」をどんな芝居にするかを、じっくりゆっくりたっぷり話し合いました。
前回の「春が来た」だったら、200本分くらいの打ち合わせを一度にしました。

打ち合わせをそれだけやっても、私が準備稿を書くのに、ものすごく時間がかかってしまったので、山田さんは、完全に次の二本分の舞台の準備とか稽古に入ってしまいました。で、準備稿は読まなかったそうです。

いいんですか?それで・・・駄目だと思うんですけど。
山田さんに読んで頂かないと、私の台本が大丈夫かどうか、全然自信ないんですけど・・・・

と、物凄く不安だったですが、「準備稿は長いのでカットの打ち合わせだけ、山田さん抜きでやりましょう」(いつもどうしても長くなるんです)とプロデューサーが言ったので、カット打ち合わせだけ、山田さん抜きでやりました。
で、その作業をやって、山田さんの方も人間のなせる業とは思えない仕事のスケジュールがなんとか一段落ついたので、やっと本打ちをすることができました。
山田さんのお言葉
「面白かったです」
・・・終わりですか?ほんとですか?嘘だと思います、絶対に嘘です!
でも、それで台本は印刷されちゃいました。

私は、山田さんという人物は勿論、どのように芝居作る演出家なのかが、山田さんの舞台を観ただけの時より、なおさら判らなくなってました。

「プライベート・ライヴズ」では、邪魔だろうが何だろうが、ほとんど毎日稽古場に行って、稽古を見ています。最初の通しが、8月26日でした。初日は9月4日ですが、ずーっと稽古を見ていて、ようやく山田さんがどんな風に芝居を作るのか、私なりに、なんとなーくぼんやーりとイメージがつかめてきたような気がします。
事実とは違うと思いますけど。

鈴木裕美は、家を建てる人ですが、
山田和也さんは、生卵を立てる人、です。

山田さんがすっごくスケール小さい、ってことじゃないです。
やること自体が全然違うんです。

コロンブスの卵とは、違います。
そのまんま、生卵を立てるんです。
山田さんは、ふつーじゃ自立しない生卵が立つ軸は、いったいどこなのか、重心はどこなのかを、注意深く探して、卵が自分で立てると思うと、そーっ・・・・・と手を離します。
と、生卵は当然のように立ちます。

それが、山田さんの芝居の作り方の、私のイメージです。

違う言葉で言うと、凄くデカイお皿を、細〜い棒の上で回せる人です。
何でもかんでも、どんどん積み上げても、それを自立させてしまうんです。
それじゃ、曲芸だ。でも、曲芸師じゃないんです。判りにくいですね。

芝居を作る時、演出家の山田さんがやることの核は、
「軸を作る」
ってことです。

ほとんどの演出家は、軸を作ること、バランスを大事にすることを、芝居を作る時に、すごく注意しているとは思います。
鈴木もバランスに非常に気を使います。それは「家を建てる」ためには、当然バランスがとても重要だから、だと思います。バランス悪いのはすごく気持ち悪いらしいです。

山田さんはなにはともあれ「軸を作る」こと自体が、まず自分のやるべきことで、それが一番重要なことだと考えているような気がします。
ふつーじゃ、自立しそうにないものを、立ててしまう人です。
そう考えると、山田さんに関する、色々な謎が解けます。

山田さんは、物凄く忙しいことで有名で「なんでそんなにたくさんの仕事ができるんだろう」と思ってました。
でも、それは一度に三十枚の皿回しをする、ようなものなんだと思います。
三十枚のお皿は、山田さんが手を離しても回ってて、どれかがバランス崩れそうになると、山田さんが飛んでいって軸とバランスを取り直して、三十枚の回る皿を維持するんじゃないかと思います。

そして、三谷幸喜さんも、鈴木聡さんも、マキノノゾミさんも、鴻上尚史さんも、アガサ・クリスティさんも、三島由紀夫さんも、ノエル・カワードさんも、あとまとめてしまいますけど、いろいろな翻訳劇も、勿論ミュージカルも・・・節操ないと言ってはあまりにも失礼なので・・・えーと、間口がとてつもなく広いのは、「どんなジャンルの芝居を作るか」ということが重要なのではなく、「とにかく軸を作る」ことが、芝居作りの主眼だからなのではないかと思うのです。

山田さんの「軸を作る」能力は、なんかもう物凄いものです。
軸を見つけたら、どんなものでもどこまでも果てしなく、積み上げていってしまいます。

鈴木だったら「スペイン風の家の屋根に米俵は乗りません!」と言い切るところですが、山田さんは、軸さえ作れば、何でも乗せられてしまうので「針の上に米俵を乗せてください」と言われても、「OKです」とのっけてしまうんです。
それが美しい軸と完璧なバランスを形作れる限り。

その技術は、山田さんが演出家になってから、ご自分で鍛えて磨き上げてきた部分も大きいと思いますが、もともとそういう能力に長けていたのだと思います。
絶対に、生卵を立てられる凄い才能を持って生まれてきた人なんです。

「ミュージカルを二ヶ月続けてあけるなんて、人間業じゃないですよ」と私が言ったら、山田さんは「でも、音楽監督や振り付け家や歌唱指導の先生が全部やってくださるから、僕がやることはそんなに大変じゃないんですよ」かなんか言ってましたが、その全体の軸を作るのこそが、実は大変な技術や知恵が必要なんだと、やっと判ってきました。

あと、私が一番判らなかったことなんですが、
山田さんは、普段、ほとんど自分が思ってることを言いません。本音とか絶対に言いません。腹を割った話とか、胸襟を開いた話とかは、一体誰としてるんだ!って感じです。私とは、そういう話をしないだけかもしれませんけど。
で、「なんでそうなんですか?」と訊いたら、
「言質をとられるからです」と山田さんは言いました。
聞いた時は、さっぱり意味が判りませんでした。言質を取られるのがそんなに大変なことなのだろうかと思いました。

でも、山田さんの芝居作りにおいては、すごく重大なことなんだと思います。
何しろ、どんなものがやってきても、軸を作って積み上げてしまうんです。予想外のあり得ないものがやってきて、最初に作ってた軸と、違う軸を作らなくてはならないことになった時、「だって最初に、ここに軸作ってたじゃん」と周りから言われてしまうと、「だって、こんな事態になったら、違うところに違う軸を作らないといけないんですよ!」というのは、非常に説明しにくいし、しかも、どうしても違う軸を作らないと、芝居が成立しないことになってしまうので、何がなんでも別の軸を作るしかないのです。
だから、「言質をとられない」ことは、山田さんにとっては、すごく重要なんだろうなと思いました。

「どんなものでも、どこまでも、何がきても、軸を取る」
という山田さんの演出手法(と私が思ってるだけですけど)は、簡単そうに見えることもあるかもしれませんけど、物凄く難易度高いと思います。ていうか、真似したり、盗んだりは絶対できないです。

山田和也さんという演出家は、生卵を立てる人、です。

一見、スケール小さい感じします。
が、それは、果てしないことができるということでもあると思います。

山田和也さんという演出家は、
「東京タワーより高い、シャンパンタワーを作ろう」と思ったら、やってしまうと思います。
目も眩む高さに、グラスを積み上げて、で「その上に米俵乗せてください」と言われたら、東京タワーのてっぺんより高いとこにあるグラスの上に、米俵乗せてしまうと思います。

でも、演出家を抜いた「山田和也さん」という人物については、相変わらずつかみどころがないです。突っ込みどころは満載ですが。
だって、芝居とあんまり関係ない時でも、常になんだか知らないけど「言質を取られないように」してるからです。私に言質を取られると、なんかすっごく無体なことをされると、山田さんに思われてるんだと思います。

 

最後に宣伝です。
山田和也さん演出の「プライベート・ライヴズ」は、2006年9月4日初日です。24日まで公演しています。名古屋・大阪でも公演があります。
お暇がある方は、是非ご来場ください。
あと、「プライベート・ライヴズ」の稽古場の様子、その他のどーでもいいことを「顔を洗って出直します」ってブログに書いています。お暇な時にそちらも覗いてみてください。

(2006年8月29日)

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