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「彼は産婦人科医になったか」

私が、小学校の時通っていた塾でのこと。
一人の男子が、他の男子たちにからかわれていた。
「○○君のお父さんて、サンフジンカの医者なんだよな。○○君もサンフジンカになるんだよなあ〜?」
○○君は、黙って参考書に目を落としていた。
「サンフジンカ!! サンフジンカ!!」
と男子たちは大合唱。
そこへ、先生がやってきて、ものすごい勢いで男子たちを怒鳴った。
「○○君のお父さんみたいなお医者さんがいなかったら、おまえら生まれてないんだぞ!!」
男子たちは、いきなり自分がこの世に存在しなかったかもしれない恐怖の可能性に思い当たり、呆然として黙り込んだ。
私はと言えば、ただきょとんとしていた。
先生の言ったことはよく判ったが、あまりにも当たり前のことなので、なんであんなに凄い剣幕で怒鳴ってまで言わなくてはないらないのかちょっと謎だったし、そもそも、なぜ○○君がからかわれなければならないのかが、さっぱり判ってなかったのだ。
赤ちゃんが生まれる時にお母さんがかかるお医者さん・・・人のためになる良い仕事だし、しかもお医者さんなのだから、勉強できないとなれない・・・なぜ大合唱して、はやされなければならないのだ・・・・
私は、その時、赤ちゃんがどう生まれるのかを知らなかった。お母さんのおなかがおへそのあたりからひび割れて、赤ちゃんが出てくるのだと思っていた。うちには私が生まれた時のへその緒というものが保存されてたので、「へそ」こそが赤ちゃんが生まれる時に重要な役割を果たすのは間違いない。そして、銭湯に行った時、お腹に縦に縫い目がある人がいたので、びっくりして「あの人のお腹どうしたの?」と母に聞いてみると、「赤ちゃんが生まれたあとよ」と教えてくれた。なので、私は完全に、赤ちゃんはお母さんのお腹が縦に割れて生まれるものだと思い込んでいた。
それから、しばらくして赤ちゃんがどっからどう生まれてくるかが判って、ようやく男子たちが○○君をからかった意味も判った。
そして、○○君はお父さんと同じ産婦人科のお医者さんにはならないかもしれないなあと思った。

それから十何年かたって、うちの二、三駅手前の駅で電車が止まった時、窓のすぐ外に「○○医院・小児科、産科、婦人科」と書いてある看板があって、いきなり○○君のことを思い出した。
○○君は、お父さんのあとを継いで、産婦人科のお医者さんになったのだろうか、それとも、小学生のあの日に心が折れてしまって小児科のお医者さんになったのだろうか。それともお医者さんじゃない仕事に就いたんだろうか。看板だけじゃ判らないし、だいたい、○○医院が、○○君の病院なのかもさだかではない。○○医院の看板を見ながら、私は十何年も忘れていた○○君のことをいきなり思い出し、彼の将来・・・じゃなくて彼の「今」を考えた。判りようもなかったけど。○○医院には、行きたくないし。だって、○○君が産婦人科のお医者さんになってたら、それはおめでとうだけど、診てもらうのはちょっと遠慮したいし。
事実は謎のままだ。

私の「産婦人科の思い出」でした。

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(2007年5月7日)

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